留学生の受け入れは、日本の総力をあげて行うべき事業
留学生の受け入れは、日本の総力をあげて行うべき事業
留学生の受け入れは、日本の総力をあげて行うべき事業
独立行政法人 大学評価・学位授与機構長
木村 孟
政府が打ち出した「『留学生30万人計画』の骨子」に基づく具体的方策の検討(とりまとめ)が2008年7月に中央教育審議会大学分科会留学生特別委員会より発表された。座長としてとりまとめに当たったのが、大学評価・学位授与機構長の木村孟氏である。
留学生の受け入れは、日本が担うべき知的な国際貢献であり、我が国が安定した国際関係を築くうえでの基礎となる、というのが持論だ。計画発足の背景、そして達成に向けた課題について伺った。
国際貢献と安全保障としての留学生の受け入れの意義
――「『留学生30万人計画』の骨子」のとりまとめの中で、どのような議論があったのでしょうか。
木村機構長(以下敬称略) 外国人留学生に名を借りた不法就労が社会問題化している背景があり、数年来、留学生の数を増やすことについては賛否両論がありました。
それでも「数を増やそう」という方針となった理由は、まず一つは我が国の国際貢献という視点です。世界第二位の経済大国であり、世界一と言ってよい技術立国である日本が、他国の人材育成のお手伝いをすることはいわば当然のことです。日本が受け入れている留学生は現在約11万8000人。これは国力に見合った規模であるとは言えないでしょう。
もう一つは、安全保障政策としての留学生の受け入れです。私は1960年代にグラスゴー、70年代にケンブリッジと二度英国で研究生活を送りました。
当時は第二次世界大戦の影響がいまだ残っていて、英国南部の人たちの反日感情が特に強いと言われていたのですが、実際はロンドンや南部など、日本人と接触する機会の多い地域では反日感情が弱く、北へ行くほど、日本人を知る機会がないためか、反日感情が強いということがロンドン大学の調査で明らかになりました。
つまり「知らない」ということは反目を促す危険性を孕みますし、反対に「知っている」ということは親しみと理解を促す可能性を生むということです。
そういう意味で、国力に見合うだけの数の留学生を受け入れるということは、日本のナショナル・セキュリティーに大きく貢献することだと考えます。 2003年の中教審答申では「こうした人的ネットワークは、わが国が安定した国際関係を築く上での基礎となるものである」と述べています。
留学生の質を上げ量を増やすには大学の改革、国際化が必要
――「2020年までに留学生を30万人に」ということは、約10年で現在の三倍近くまで増やすことになります。政策から実際の受け入れまでさまざまなハードルが予想されます。
木村 政策上の課題から言いますと、近年大分縮まってきていますが、日本から留学で出て行く学生と日本に来る学生の間に数の面でアンバランスがあります。それとご承知のように、日本に来ている留学生の9割はアジアからで、中国がその中でも圧倒的に多い。
日本からはアメリカ、ヨーロッパに7割近く出て行っているので、ここにも大きなアンバランスがあります。数も増やしながら質も上げるにはまず日本の高等教育の質を上げる、そして日本の大学を国際化することが必要です。そのために私が提案しているのが、日本版ブリティッシュ・カウンシルの創設です。
ブリティッシュ・カウンシルはイギリス政府が運営する文化交流機関で、100カ国近くに大使館とは別にオフィスを設け、大学の情報提供や留学希望者向けの試験、留学前のサジェスチョンなどにワンストップで対応しています。
日本人の学生がイギリスに留学したいと希望する場合には、ブリティッシュ・カウンシルへ行けば、そこですべての情報を得られるという仕組みになっています。それに倣って、日本の留学生政策や各大学の政策、高等教育の状況など、留学生に必要な情報を一元管理する機関をつくろうということです。
では、受け入れる日本の大学の側に留学生を増やすキャパシティがあるのかというと、大学で非常に熱心に留学生をトレーニングしているのは工学、理学、医学、農学など主として自然科学系の学部です。丁寧にケアしている分、現実にはこれ以上、留学生を増やすのは難しいという声があがっています。ですから、私たちは自然科学系の分野については、大学院に特化して受け入れを増やす道を模索しています。
日本は自然科学系の学問が強く、2008年もノーベル賞受賞者が物理学から三人、化学から一人出ました。現在は9割がアジアからの留学生ですが、日本は自然科学系分野でこれだけの強さがあるのですから、欧米各国からの留学生増も期待できます。アメリカとヨーロッパの学生を日本の自然科学分野に、戦略的分野(Strategic Field)として、留学してもらう政策を徹底して検討していくつもりです。
アジアに対しては、アジア地域の11カ国が参加する大学間協定である「シードネット」というプログラムが、いまとてもいい動きをしています。これは、ODA資金を使った途上国援助の一環として行っているもので、工学系学部の修士以上の課程を対象にしています。修士課程については、日本を除く加盟国同士なら、どこの国の大学に行っても日本政府が留学資金を援助するというものです。
博士課程については日本の大学に短期または長期に滞在しなければなりません。2001年からスタートして2008年で第一期が終了しますが、修士は数百人、ドクターも100人近く輩出しています。いまこのようなネットワークが、アジア地域だけでも多数出てきています。
たとえば、元香港科学技術大学チア・ウェイ・ウー学長が提唱した「東アジア研究中心大学連合」もその一つです。日本、中国、台湾、韓国の理科系の研究で名のある一流大学が連携し、定期的に研究交流、学生交流を進めていこうという試みです。こういうものを積極的に活用し、日本にアジアの優秀な留学生を呼ぶための仕組みとして機能させていくことも一つの道でしょう。
専門学校、語学学校に対するサポートも重要です。専門学校は学位が取れないために留学生の関心が薄いのですが、日本には非常に優秀な専門学校があります。実践的技術や即戦力としての人材を必要とする国からの留学生の数は増えるはずです。それから語学学校、とりわけ日本語学校を充実させていかなければなりません。
現在も、特に中国人留学生の多くが、日本語学校で日本語を習得して大学に入学しているのです。留学生の質を高め、かつ数を増やすために日本語学校を整備することは、優秀な留学生が大学へ入学することにつながります。ただし、これにはビザの問題があります。留学生がらみの事件が過去に起きたために、就学ビザと留学ビザの区別をなくすことは容易ではないでしょうが、しかるべき所管機関を設置するなどして将来的には実現するべきでしょう。
留学生に関する政策は、法務省、外務省、文科省、厚労省などさまざまな省庁がかかわるため、「30万人計画」の実現には、省庁間の連携を深めることが大変重要です。しかし最も重要なことは、日本の大学を魅力的にすることと、日本の社会を魅力的にすることです。大学の改革、国際化とともに企業にも、留学生に対する意識を変えていただきたいと思います。毎年、留学生のうち、約1万人もの学生が日本で就職しています。驚くべき数字です。
しかし、就職先のほとんどが従業員300人以下の中小企業で、大企業は留学生の採用に対して積極的とは言えません。留学生としてきちんと学問を修めた人たちは、能力も人格も優れていると見てよいでしょう。大企業も留学生の採用に積極的になり、日本での就職の門戸がさらに大きく開かれるということは、日本の社会がより魅力的になるということでもあります。
また、留学生の住居の問題も重要です。大学もしくは公的な寮に入っている留学生は全体の20%強で、80%弱は民間の住居で暮らしています。現在の日本はGDPの150%近い借金を抱える国です。留学生受け入れのための官の援助はすぐには期待できません。これからは民間の努力がぜひとも必要です。民間の力を借りてリーズナブルな価格で外国人留学生向けに宿舎を提供することなどは、とても効果的で必要なスキームだと思います。
外国人を「知る」ことがよりよい社会につながる
――留学生を積極的に受け入れようと、主要な大学はプログラムの充実などさまざまな対策を講じています。
木村 大学の環境整備における喫緊の課題は、まず英語を話せる事務局員を育てることです。英語が話せて、面倒見がよくて、留学生からセカンド・マザー、セカンド・ファーザーのように慕われる事務局員が、それぞれの大学にいなくてはいけません。国立大学法人への移行等で人事の自由度が増して、主要な大学は外国語のできる人、留学生に関する仕事が好きな人を積極的に採用しています。これからそのような大学の動きを増やしていきたいところです。
また、英語による講義を増やす必要もあるでしょう。「せっかく日本に来ているのに、英語で授業するのはいかがなものか」という議論はあります。しかし、すべての講義や生活を英語でサポートするということではありません。生活では日本語を使い、日本文化に触れてもらえるよう支援しながら、主要な講義は英語で行うという態勢を整えていく。漢字の分からない国々からの留学生を増やすには、これは必須の改革でしょう。
――では、留学生を受け入れる側として、私たちはどのような心構えが必要でしょうか。
木村 たとえば日本人学生に目を向けると、最近の学生は留学生との交流に対して全体的に消極的なようです。私たちが学生の頃は留学生に限らず誰かれなしに周りの人の面倒を見ていたというのが私の実感です。その意味でも、留学生だけの宿舎はつくらず、日本人と混住させるという文部科学省の方針は正しいと思います。留学生が増えて、留学生との接点が増えるにつれて、日本人学生の意識も開けてくることを期待したいものです。
あるとき、マレーシアからの留学生の賃貸アパート探しを手伝ったのですが、後日、わざわざ大家さんから電話があり、「本当に素晴らしい学生たちだ」と大変な喜びようでした。思わず私も目頭が熱くなるほどでした。この他にも同じような経験がいくつもあります。大家さんは最初、留学生だと聞いて少し抵抗があったものの、彼らをよく「知る」につれ理解と親しみが生まれてきたのだと思います。
このように、少しずつではありますが、留学生にとっての日本の環境は、よい方向へと変わってきています。公の仕組みがさらに充実していけば、留学生がより学びやすく、より暮らしやすい社会に変わっていくことと思います。そして、それは、我々日本人にとってもよりよい社会になっていくということだと確信しています。
木村 孟 Tsutomu Kimura
1938年生まれ。61年、東京大学工学部土木工学科卒業。東京大学大学院数物系研究科土木工学修士課程修了。東京工業大学教授、同工学部長を経て、93年、東京工業大学学長に就任。98年より現職。文部科学省中央教育審議会副会長を兼務。ケンブリッジ大学チャーチルカレッジフェロー。
大学改革提言誌「Nasic Release」第18号より
独立行政法人 大学評価・学位授与機構長
木村 孟
政府が打ち出した「『留学生30万人計画』の骨子」に基づく具体的方策の検討(とりまとめ)が2008年7月に中央教育審議会大学分科会留学生特別委員会より発表された。座長としてとりまとめに当たったのが、大学評価・学位授与機構長の木村孟氏である。
留学生の受け入れは、日本が担うべき知的な国際貢献であり、我が国が安定した国際関係を築くうえでの基礎となる、というのが持論だ。計画発足の背景、そして達成に向けた課題について伺った。
国際貢献と安全保障としての留学生の受け入れの意義
――「『留学生30万人計画』の骨子」のとりまとめの中で、どのような議論があったのでしょうか。
木村機構長(以下敬称略) 外国人留学生に名を借りた不法就労が社会問題化している背景があり、数年来、留学生の数を増やすことについては賛否両論がありました。
それでも「数を増やそう」という方針となった理由は、まず一つは我が国の国際貢献という視点です。世界第二位の経済大国であり、世界一と言ってよい技術立国である日本が、他国の人材育成のお手伝いをすることはいわば当然のことです。日本が受け入れている留学生は現在約11万8000人。これは国力に見合った規模であるとは言えないでしょう。
もう一つは、安全保障政策としての留学生の受け入れです。私は1960年代にグラスゴー、70年代にケンブリッジと二度英国で研究生活を送りました。
当時は第二次世界大戦の影響がいまだ残っていて、英国南部の人たちの反日感情が特に強いと言われていたのですが、実際はロンドンや南部など、日本人と接触する機会の多い地域では反日感情が弱く、北へ行くほど、日本人を知る機会がないためか、反日感情が強いということがロンドン大学の調査で明らかになりました。
つまり「知らない」ということは反目を促す危険性を孕みますし、反対に「知っている」ということは親しみと理解を促す可能性を生むということです。
そういう意味で、国力に見合うだけの数の留学生を受け入れるということは、日本のナショナル・セキュリティーに大きく貢献することだと考えます。 2003年の中教審答申では「こうした人的ネットワークは、わが国が安定した国際関係を築く上での基礎となるものである」と述べています。
留学生の質を上げ量を増やすには大学の改革、国際化が必要
――「2020年までに留学生を30万人に」ということは、約10年で現在の三倍近くまで増やすことになります。政策から実際の受け入れまでさまざまなハードルが予想されます。
木村 政策上の課題から言いますと、近年大分縮まってきていますが、日本から留学で出て行く学生と日本に来る学生の間に数の面でアンバランスがあります。それとご承知のように、日本に来ている留学生の9割はアジアからで、中国がその中でも圧倒的に多い。
日本からはアメリカ、ヨーロッパに7割近く出て行っているので、ここにも大きなアンバランスがあります。数も増やしながら質も上げるにはまず日本の高等教育の質を上げる、そして日本の大学を国際化することが必要です。そのために私が提案しているのが、日本版ブリティッシュ・カウンシルの創設です。
ブリティッシュ・カウンシルはイギリス政府が運営する文化交流機関で、100カ国近くに大使館とは別にオフィスを設け、大学の情報提供や留学希望者向けの試験、留学前のサジェスチョンなどにワンストップで対応しています。
日本人の学生がイギリスに留学したいと希望する場合には、ブリティッシュ・カウンシルへ行けば、そこですべての情報を得られるという仕組みになっています。それに倣って、日本の留学生政策や各大学の政策、高等教育の状況など、留学生に必要な情報を一元管理する機関をつくろうということです。
では、受け入れる日本の大学の側に留学生を増やすキャパシティがあるのかというと、大学で非常に熱心に留学生をトレーニングしているのは工学、理学、医学、農学など主として自然科学系の学部です。丁寧にケアしている分、現実にはこれ以上、留学生を増やすのは難しいという声があがっています。ですから、私たちは自然科学系の分野については、大学院に特化して受け入れを増やす道を模索しています。
日本は自然科学系の学問が強く、2008年もノーベル賞受賞者が物理学から三人、化学から一人出ました。現在は9割がアジアからの留学生ですが、日本は自然科学系分野でこれだけの強さがあるのですから、欧米各国からの留学生増も期待できます。アメリカとヨーロッパの学生を日本の自然科学分野に、戦略的分野(Strategic Field)として、留学してもらう政策を徹底して検討していくつもりです。
アジアに対しては、アジア地域の11カ国が参加する大学間協定である「シードネット」というプログラムが、いまとてもいい動きをしています。これは、ODA資金を使った途上国援助の一環として行っているもので、工学系学部の修士以上の課程を対象にしています。修士課程については、日本を除く加盟国同士なら、どこの国の大学に行っても日本政府が留学資金を援助するというものです。
博士課程については日本の大学に短期または長期に滞在しなければなりません。2001年からスタートして2008年で第一期が終了しますが、修士は数百人、ドクターも100人近く輩出しています。いまこのようなネットワークが、アジア地域だけでも多数出てきています。
たとえば、元香港科学技術大学チア・ウェイ・ウー学長が提唱した「東アジア研究中心大学連合」もその一つです。日本、中国、台湾、韓国の理科系の研究で名のある一流大学が連携し、定期的に研究交流、学生交流を進めていこうという試みです。こういうものを積極的に活用し、日本にアジアの優秀な留学生を呼ぶための仕組みとして機能させていくことも一つの道でしょう。
専門学校、語学学校に対するサポートも重要です。専門学校は学位が取れないために留学生の関心が薄いのですが、日本には非常に優秀な専門学校があります。実践的技術や即戦力としての人材を必要とする国からの留学生の数は増えるはずです。それから語学学校、とりわけ日本語学校を充実させていかなければなりません。
現在も、特に中国人留学生の多くが、日本語学校で日本語を習得して大学に入学しているのです。留学生の質を高め、かつ数を増やすために日本語学校を整備することは、優秀な留学生が大学へ入学することにつながります。ただし、これにはビザの問題があります。留学生がらみの事件が過去に起きたために、就学ビザと留学ビザの区別をなくすことは容易ではないでしょうが、しかるべき所管機関を設置するなどして将来的には実現するべきでしょう。
留学生に関する政策は、法務省、外務省、文科省、厚労省などさまざまな省庁がかかわるため、「30万人計画」の実現には、省庁間の連携を深めることが大変重要です。しかし最も重要なことは、日本の大学を魅力的にすることと、日本の社会を魅力的にすることです。大学の改革、国際化とともに企業にも、留学生に対する意識を変えていただきたいと思います。毎年、留学生のうち、約1万人もの学生が日本で就職しています。驚くべき数字です。
しかし、就職先のほとんどが従業員300人以下の中小企業で、大企業は留学生の採用に対して積極的とは言えません。留学生としてきちんと学問を修めた人たちは、能力も人格も優れていると見てよいでしょう。大企業も留学生の採用に積極的になり、日本での就職の門戸がさらに大きく開かれるということは、日本の社会がより魅力的になるということでもあります。
また、留学生の住居の問題も重要です。大学もしくは公的な寮に入っている留学生は全体の20%強で、80%弱は民間の住居で暮らしています。現在の日本はGDPの150%近い借金を抱える国です。留学生受け入れのための官の援助はすぐには期待できません。これからは民間の努力がぜひとも必要です。民間の力を借りてリーズナブルな価格で外国人留学生向けに宿舎を提供することなどは、とても効果的で必要なスキームだと思います。
外国人を「知る」ことがよりよい社会につながる
――留学生を積極的に受け入れようと、主要な大学はプログラムの充実などさまざまな対策を講じています。
木村 大学の環境整備における喫緊の課題は、まず英語を話せる事務局員を育てることです。英語が話せて、面倒見がよくて、留学生からセカンド・マザー、セカンド・ファーザーのように慕われる事務局員が、それぞれの大学にいなくてはいけません。国立大学法人への移行等で人事の自由度が増して、主要な大学は外国語のできる人、留学生に関する仕事が好きな人を積極的に採用しています。これからそのような大学の動きを増やしていきたいところです。
また、英語による講義を増やす必要もあるでしょう。「せっかく日本に来ているのに、英語で授業するのはいかがなものか」という議論はあります。しかし、すべての講義や生活を英語でサポートするということではありません。生活では日本語を使い、日本文化に触れてもらえるよう支援しながら、主要な講義は英語で行うという態勢を整えていく。漢字の分からない国々からの留学生を増やすには、これは必須の改革でしょう。
――では、留学生を受け入れる側として、私たちはどのような心構えが必要でしょうか。
木村 たとえば日本人学生に目を向けると、最近の学生は留学生との交流に対して全体的に消極的なようです。私たちが学生の頃は留学生に限らず誰かれなしに周りの人の面倒を見ていたというのが私の実感です。その意味でも、留学生だけの宿舎はつくらず、日本人と混住させるという文部科学省の方針は正しいと思います。留学生が増えて、留学生との接点が増えるにつれて、日本人学生の意識も開けてくることを期待したいものです。
あるとき、マレーシアからの留学生の賃貸アパート探しを手伝ったのですが、後日、わざわざ大家さんから電話があり、「本当に素晴らしい学生たちだ」と大変な喜びようでした。思わず私も目頭が熱くなるほどでした。この他にも同じような経験がいくつもあります。大家さんは最初、留学生だと聞いて少し抵抗があったものの、彼らをよく「知る」につれ理解と親しみが生まれてきたのだと思います。
このように、少しずつではありますが、留学生にとっての日本の環境は、よい方向へと変わってきています。公の仕組みがさらに充実していけば、留学生がより学びやすく、より暮らしやすい社会に変わっていくことと思います。そして、それは、我々日本人にとってもよりよい社会になっていくということだと確信しています。
木村 孟 Tsutomu Kimura
1938年生まれ。61年、東京大学工学部土木工学科卒業。東京大学大学院数物系研究科土木工学修士課程修了。東京工業大学教授、同工学部長を経て、93年、東京工業大学学長に就任。98年より現職。文部科学省中央教育審議会副会長を兼務。ケンブリッジ大学チャーチルカレッジフェロー。
大学改革提言誌「Nasic Release」第18号より