2024/11/05 17:02

海の再生に人生を賭ける

特集
 

海の破壊者から
海の救世主になったプロダイバー
 
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プロダイバーの渋谷正信さんに
グローバルコミュニティーインターン生の
ランス・トロング君がお話を聞きました
 
 
 
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渋谷正信氏プロフィール:「渋谷にできない仕事はあきらめろ」といわれるほどの潜水工事の第一人者。本四架橋、羽田空港、東京湾アクアラインなどの多くの水中工事でも活躍。最近は、長年の調査に基づいた海の再生プロジェクトで、日本国内はもとより世界でも注目を浴びている。TBS系列 情熱大陸、夢の扉に出演.また忙しい仕事の合間を縫って、教育機関での講演で海を守る大切さを伝えている。


Q:海を守る活動をするようになった経緯を教えてください。

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25歳よりプロダイバーとして働き始めたが、私は、『誰よりも長く、誰よりも深く潜る』が信条で、潜水技術と体力には、誰にも負けない自身があった。そして、32歳で潜水工事会社を設立。しかし、最初の大きな潜水工事の仕事で潜水病を発症。3ヶ月の入院生活の中で人間は弱いものだと初めて気がついた。だが、その先にもまだ人生の試練が待っていた。私が人の気持ちをあまり考えず、社員にあまりに厳しいことを要求していたために、社員全員が一度に辞めてしまったのだ。
とても情けない気持ちになり、それ以降、精神的な世界の本を読んだり、ヨガなども始めた。そこで学んだ思いやりの気持ちで日々、自然や妻と接しているうちに『静かなものの中にある強さ』『女性の強さ』を深く感じるようになった。なにも言わず支えてくれる妻にも感謝するようになり、海に潜っても忘れかけていた自然の美しさを再発見するようになった。『こんな美しい海を私は水中工事で破壊し続けていたんだ。』それまで行った過去の工事を振り返り、日々後悔の念を感じ、仕事を辞めたいと考えるようになった。

『海を守ろう!!目覚めるきっかけになったアクアラインの工事』



迷いを払拭できない状態の中で、東京湾アクアラインの仕事が始まった。最初の作業として、「風の塔」と呼ばれる換気装置を据え付けた。しばらくして、その構造物に潜水し、調査してみると、黒鯛が住みついていたのを発見した。その瞬間に今まで携わった工事後の海で魚が戻ってきていた状況が次から次と目に浮かんできた。そして気がついた。

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『水中工事のすべてが悪い訳ではない。やり方次第で魚たちが住みやすい環境を作ることができるはずだ。』 それ以降「環境と開発の両立」や「潜水を通しての心の教育」に人生を捧げる決心をした。生物については、元々専門家ではなかったため、自分で海草や魚などについて一から勉強を始めた。そして、過去に携わった現場に戻り、写真やビデオで工事の後の海を徹底的に撮影して研究した。そして、私たちが提唱する海の環境にやさしい水中工事のスタイルが、少しづつ注目されるようになり、最近はテレビなどのマスコミでも取り上げられるようにもなった。ついに自分の見てきた水中の世界の現実に光が当たりはじめのた。長年地道に活動してきて本当に嬉しかった瞬間だ。
日本の海は、今危機的状況にある。魚や貝の栄養になる海草が急激に減少しているからだ。その現状をまず出来るだけ大勢の人たちに知ってほしい。ちゃんと手当てをすれば、まだ、いろいろなところで海の再生が十分に可能だ。

Q:留学生や若い読者の人たちにメッセージをお願いします。

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私は海のテロリストだった。しかし、今は海を守ることに全精力を捧げている。今はあなた自身も環境を破壊しているかもしれない。しかし、今からでも遅くはない。どんな人にも素晴らしい聖なる心があると思う。嫌なことがあってもそれを乗り越える力だとか、人に親切にするとか、そういう心をみんな持っている。これから先、何度も失敗もすると思うし、嫌なこともあると思うけど、時には自然の美しさに触れ、できるだけ多くの人に優しい言葉を掛けて、前向きに毎日を送ってほしい。

湾岸戦争で海が重油で汚れているのを見ていたたまれず、海をきれいにしようと現地でボランテイアをした経験を持つ渋谷さん。自分が大切だと思ったことは躊躇なく実行に移す実行力。60歳になった今でも、先頭に立って自分自身も海に入っていく渋谷さんの姿勢から学ぶことは多いと思う。今私たちに望まれているのは議論でなく行動だ。

 
 
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 インタビューした学生の感想文 ランス トロング さん  オーストラリア モナッシュ大学  日本語・ジャーナリズム専攻

日本だけでなく、世界中で尊敬を受けているプロダイバーに話を聞かせていただいたのは、貴重でユニークな体験でした。若者の一人として、多種多様な経験を持っている人と会うことは勉強になり、自分のこれからの人生を考えさせられました。また、渋谷さんの環境再生の活動やそれまでの経緯を聞いた時、「単にプロダイバーの第一人者というだけでなく、社会貢献活動の第一人者でもあるんだ。」と、更に渋谷さんへの尊敬の念が深くなっていきました。現在の様々な環境問題を抱えている地球にとって、こういう人こそ救世主ではないかと思います。