2024/12/20 02:56

多文化共生時代の出産事情

みんなの生活
「シンスイ?進水?あぁっ神の水、神水。それってどこにあるんですか?」
 
藤原ゆかりさん 助産師、看護師。
多文化医療サービス研究会(RASC)の共同代表
http://www.rasc.jp/

 
 
みなさんも聞いたことがあるかもしれない中国人女性のお話です。

わたしが出会った中国人の女性は、からだを温めることを大切にしていました。彼女の出産は真夏のことでしたが、出産後は一度もシャワーを浴びず、さらにはベッドに横になるときは電気毛布を使用するという徹底ぶりでした。出産は大仕事ですごく汗をかきます。そのため、通常、日本ではお産の翌日からシャワーを浴びることが多いです。そのためその女性のことを「なんて横着で不潔な人だろう!」と思っていました。


そこである日、「シャワー浴びませんか?気持ちいいですよ。」といってみました。すると「とんでもない!」とびっくりした表情。話を聞くと、彼女の出身地方では、出産後に入浴することによって体力が消耗し、のちに病気になるか死期が早まるので、出産後の1ヶ月間は入浴を禁止されているというのです。そこでわたしは、「じゃあ・・・シャンプーだけならどうですか?」と。だって、髪の毛が束になって固まっていたんですから・・・!

「シャンプー!?だめだめ?シンスイがあればするけど。」

「シンスイ?進水?あぁっ神の水、神水。それってどこにあるんですか?」

「中国。」

「・・・・それはそうだ・・・。」

 女性とわたしの会話は漫才のようでしたが、偏見をもつのではなくちゃんと話をすることで、彼女の価値観や日本以外の国の出産への考え方・習慣などを知るきっかけになりました。この女性は、結局シャワー浴はしませんでしたが、水を使用しない泡のシャンプーで洗髪しました。つまり彼女の文化的な欲求と看護がうまく交渉できた、ということでしょうか。しかし、このように知り得た文化的な習慣が中国人全てに共通するものではありません。同じ中国でも地方によって出産に対する考え方が違うからです。またそれ以上に国籍や人種を超え、人間はだれでも個性があります。違う機会に出会った中国人女性は、母親にシャワーを浴びることを強く禁止されていたのですが、「どうしても浴びたい。こっそり入るから母には内緒にしてほしい」と訴えてきたのです。


文化や習慣は伝統として受け継がれていきますが、しかし時代によってその内容は変化し解釈も異なっていきます。またその習慣を受け継いだ人によっても文化は風貌を変えてしまいます。つまりその人によって持つ文化は異なるということです。看護の世界ではその人の欲求にあった看護を提供することを最大の目標としています。つまり個別性を大切にしているのです。個別的なケア‐これこそ、その人のもつ文化を考慮して提供されるケアですね。看護って時代をよむ先見の明がありますね(笑)